Ovarian Trolly 「Crocodile Tears」(1993)

 切迫感持った女性ボーカルのサイケなパンク風味のロック。

 メロディや勢いよりも、サウンドの雰囲気で焦りや混乱をロックにぶつけたスリルが本盤の味だ。女性ボーカルを前面に立てたギター・トリオのシンプルな編成。鍵盤などの楽器足しは無し。コーラス以外はダビングもなく、バンドの音そのままで仕上げた。

 クレイマーのプロデュースとスティーブ・ワトソンの録音で、93年にシミー・ディスクのサブレーベル、shimmy bootより発売された。シミー・ブートは十数枚あるはずだが、本体からリリースしづらいスカム要素のある音楽をリリースしてたってイメージある。
 もっとも本盤は演奏がヘタなわけではない。いや、上手くもないが。華が無く力任せにサウンドを作り上げたイメージある。

 クレイマーは別にレーベルで音楽シーンを盛り上げる気は、使命感ってほど熱意がなかったように思う。特に93年くらいからあとは。創作欲は自分のソロでのめりこみ、数枚を除いてはお仕事としてプロデュースしてたっぽい。

 ならばレーベルを背負う意味があるのか。シミーの音楽はビジネスとして成立させるには、あまりにサブカルチャー寄り。いかにグランジが流行った当時ですら、も。
 けれどクレイマーは売れるというか新しいものを追うより、バンドからの売り込みやオファーに任せて自分の好みに近いものを、片端からシミーでリリースしてたように見えた。
 
 これもそんな一枚。リリースしたはいいものの、その後のバックアップも特にない。サウンドも手をかけてない。しかしクレイマーはバンド側の悪ふざけや、混沌さを上手くパッケージ化した。
 商品化の力。それがクレイマーのさりげない才能だと思う。スカム、もしくはサイケ。どちらも奔放で単なるゴミにしかならぬ危険性がある。パンクもそうだ。破壊衝動やもやもやした感情をぶつけ、音楽にならない一過性の自己満足なノイズで終わりかねない。
 
 だがクレイマーがプロデュースすると、なんとなく形になる。売れ線、まで手をかけたり磨かない。けれども煙ったうさん臭さを漂わせつつ、下手くそな演奏が味に消化される。その最高傑作がギャラクシー500だろう。
 
 本盤もライブだと、とっ散らかって分け分からないまま終わりそう。女性ボーカルがメロディーを唸り、ドラムは直線的なリズムを刻む。ベースはグルーヴに行かない中途半端なフレーズをばらまく。ギターはとにかく、歪んだ響きをばらまいた。
 およそスピード感や爽快な点は無い。けれど微妙にポップ。しかし覇気がない。

 このポップさの抽出がクレイマーの仕事だ。曲はどれも構成がなさそうな淡々とした展開ながら、ミックスでメリハリをつけノイズに埋もれさせない。ギターのざらざらする剛腕さを前面に出しつつ、ボーカルはきっちり聴かせた。

 さらにハーモニーをダビングし、詰まった和音感で切なさと切迫感を強調する。
 低音と高音を強調し、分離を良くしたミックス。その一方で、混沌さはたっぷり。というより稚拙な演奏が味や混沌に聴こえてるだけか。

 この盤は(3)が意外にポップだが、全般的にはとりとめがない。女性ボーカルも喉を張って歌うより、なんか適当に声をメロディに載せてるだけ。
 (6)のようにアグレッシブなパンク風の勢いある曲もあるが、ほとんどは淡々と曲が過ぎていく。今一つ華が無いのは、そんなところ。内に籠らない。でも売れ線を狙ってガツガツもしない。自己完結っぷりスレスレの魅力を見つけづらいバンドだ。
 
 それでも、なんかアルバムとして聴かせてしまう。これがプロデュースのおかげと思う。

 ただし。本盤には共同プロデューサーとしてスティーブ・ワトソンとバンドがクレジットある。つまりクレイマーは名前だけ貸して、何にも関与してない可能性が捨てきれない。実際の、本盤を聴きやすくした手柄は誰だろう。

 なおバンドの情報探しで検索してたら、カリフォルニアのスタンフォード大学のカレッジFMラジオ、KZSUの94/7/31付チャートで本盤が14位につけてた。当時の尖った学生たちは目をつけた盤だったみたい。
 ちなみに同時期に、我が愛しのGuided by Voicesの名盤"Bee Thousand"が6位を獲得。そういう時代だったのか。
http://kzsu.stanford.edu/charts/1994/94-07-31.html/

 チャートの推移を追ったら、興味深い。翌週の8/7付で12位が最高位。8/14付で16位。いったん消えて9/4に26位としぶとい動きだ。カレッジ・チャートは飽きっぽい学生が面白い音楽を次々取り上げ、がらがらと変わるのが特徴。
 にもかかわらず、本盤が2ヶ月近くも下のほうとは言えチャートに残り続けてたのが凄い。一回で消えてしまう盤だってあるのに。なんか、琴線に触れたらしい。

 このバンドは本盤だけで終わらず、その後レーベルを変えつつ"Bullseye"(1995),"Ciao Meow"(1997)と、少なくとも数年はしぶとく活動を続けた。へえ、知らなかった。
 2ndと3rdは今も入手が可能。むしろシミーの倒産で本盤が一番、入手はてこずりそう。中古盤屋の隅にあっさり転がってるかもしれないが。
  
 Youtubeでは2ndや3rdの曲はあるけれど、本盤の音源は見つからなかった。
 

Track listing:
1. See What Happens
2. Rogue
3. Crocodile Tears
4. Senorita
5. Lost Girls
6. Serenity
7. Death
8. Puppy
9. Coin Op.
10. Dream

Personnel;
Produced by Kramer
Engineered by Steve Watson
Co-produced by Steve Watson and Douglas Hillsinger at Noise New Jersey.

Ovarian Trolley
Bass, Vocals - Laurie Hall
Drums, Vocals - Jennifer Hall
Guitar, Vocals - Buck Bito

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