勝井祐二 「ヴァイオリン・ソロ」(2003)

 エレクトリック・バイオリンの夢見心地な即興が溢れた。

 先日にフリッパトロニクスを改めてじっくり聴き、テープ・ディレイを駆使した即興は時代を先取りと思った。ぱっと連想したのがこの盤。エレクトリック・バイオリンでフレーズを重ね、むせ返るような響きを充満させる。
 本盤は鬼怒無月との共同レーベル、まぼろしの世界から03年にリリース。待望の盤だった記憶がある。発売にあたってのほんにんのこめんとはこちら。
http://www.katsuiyuji.com/mabonetwork/solo.html

 本盤発売のちょっと前まで、勝井は数多くのライブをさまざまなセッションで行っており、演奏はたっぷり聴けた。ROVOの"FLAGE"が02年。だいぶROVOの存在感が増した頃合いだ。
 だがじっくりとバイオリンだけに集中できる音盤は無かった。まだこのときは、今ほどCD発表の敷居は低くなかったし。
 そんな中、おもむろに発売が本盤。しかもダビング無しの一発録音。すごく嬉しかった。

 ここでは明るさや柔らかさは少なめ。楽曲やメロディの妙味よりも、暗黒インプロに軸足置いた。むしろ爽快感やリズミカル、スピードをライブの勝井には感じてただけに、本盤でのアプローチには戸惑った記憶もある。

 しかもタイトルは「戦前、戦後」。特に勝井は政治発言を行うこともないため、ここでいう戦争が具体的な念頭あるのか、観念的なものかはわからない。
 だがシリアスで、混沌の奥に強い意志を込めたことは想像できた。単に録音順かもしれないが、After Warで挟み、IIとIが逆転を起こす曲順も何だか意味ありげだ。

 楽曲は明確に曲ごとで異ならない。エレクトリック・バイオリンの広がりがディレイやリバーブで飛ばされて、残響のなか次の音が重なっていく。スペイシーで幻想さを持つ。
 ライブで披露した同じフレーズを重ねながら高まっていくミニマルさは、控えめか。むしろエフェクト操作っぽいブツブツした音も使用が、当時は意外だった。あまり、勝井の演奏にそういうアプローチのイメージが無かったから。ボンフルのライブで、かがみこんでエフェクタ弄ってたことはあったかな。

 バイオリン・ソロだがメロディ感は希薄で、シンセ操作っぽいめくるめく電子音の広がりが詰まってる。

 (1)はメロディックに行くと思わせ、ザクザクとサイケな世界へあっさりと突入した。ディレイ・ループが加速し、バイオリン演奏よりもエフェクト操作に軸足置いた感あり。まさにディレイの渦が軋みながら展開する。
 ちょっとハウった場面もお構いなし。ループを加速させ酩酊感を出した。

 (2)が長尺でたっぷりと即興の妙味を味わえる。ストーリー性よりも瞬発力で場面展開かのよう。たっぷりエフェクタ操作の後に、残響をすべて外したピチカートをループさせ音を複雑化させるなど、さまざまな奏法を工夫して演奏を組み立てた。

 (3)はアラビックな音色からためらいがちにソロが進行し、潰れた和音感から粘っこい混沌へずぶずぶと沈んでいく。この強力な進行性が凄い。ドローンで低音が響き続ける上で、奔放にフレーズが炸裂した。ディレイと生演奏が折り重なり、スリリングで美しい世界が広がる。
 ざらついた音色で耳の奥まで、響きが強く注ぎ込まれていく。低周波が心地よい。

 そして最後の(4)はディレイ・ループが溢れ、崇高な明るさ漂う開放感と希望を持たせる作りで始まる。中盤はつかみどころない、柔らかくもやっとした展開。ハウリング・ノイズもディレイで重ね、構わず音楽へ取り込んでいく。
 スパッと音を切り替えながらも、流れは常に緩やかに継続した。

 バイオリンの歴史を踏まえながら、無国籍な立ち位置。屈折しながら開放的という、独自の音空間を作り出す勝井の自由さを封じ込めた盤だ。
 48分弱とそれなりの尺はあるのに、あれよあれよと演奏に引き込まれミニ・アルバムのようなあっけなさも感じてしまう。

 そして本盤から10年以上たっても、続きとなるソロ演奏のCDは発表されていない。
 だからとても、貴重な盤になっている。

Track listing
1. after war II
2. before war I
3. before war II
4. after war I


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