David Sylvian & Robert Fripp 「The First Day」(1993)

 バラエティに富んだ昏いニューウェーブとアンビエントなロック。

 ロバート・フリップはキング・クリムゾンの活動とは別に、テープ・ディレイを駆使したアンビエントな、フリッパトロニクスとしての盤やDGM発売のMP3音源が多数ある。本盤はどちらかと言うと、アンビエント寄りのアプローチ。

 きっかけはフリップがシルヴィアンへクリムゾンへの加入を勧誘と言う。
 ジャパンのデヴィッド・シルヴィアンへ、どう興味を持ったかわからない。リリカル要素を付与、すなわちピート・シンフィールドみたいな方向性を期待か。
 結果的にシルヴィアンのクリムゾン参加は叶わなかったが、コラボとして本盤が誕生した。翌年にはライブ盤も発表に至る。だがそれでこのコンビは終わったようだ。

 本盤発売の93年はクリムゾン再々結成の前夜。アルバムで言うと"THRAK"(1995)の前に当たる。このダブル・トリオ編成に向け内々に試行錯誤の最中か。本盤のサイドメンでも、ダブル・トリオのメンバーであるトレイ・ガンが参加。
 あんがいダブル・トリオでエイドリアン・ブリューの立ち位置をシルヴィアンに期待だったのかも。
 ドラムはスタジオ・ミュージシャンで名高いジェリー・マロッタが叩いた。
 この前にプリンスの楽曲を歌ったソロ"May, 19, 1992"(1991)を発売のイングリッド・シャヴィスがコーラスでクレジットあり。

 なおなぜか録音はニューヨークとニューオーリンズで行われてる。ニューヨークはマロッタのスタジオ、ドリームランドにて。ニューオーリンズはダニエル・ラノアのキングスウェイ・スタジオが使われた。ミックスはニューヨークのエレクトリック・レディランド・スタジオにて。
 あえて二人の地元、イギリスでなくアメリカで録音は売れ線を狙ったか。その割に、ニューオーリンズで連想する黒人音楽っぽいニュアンスは皆無。硬く乾いた世界が広がっていく。

 歌詞はシルヴィアン。作曲はシルヴィアンとフリップの他に、トレイ・ガンもクレジットある。ただし単なるポップにもプログレにも仕立てず、多彩なアレンジをアルバムに収めた。 
 全体像は影のあるトーンで、アンビエントなフリップのギターがたっぷり。けれども歌ものから即興風のインストまで幅広くバラエティ豊かなアルバムに仕立てた。
 フリップの独裁でもなく、シルヴィアンのソロにフリップが色付けでもない。二人の趣味が強引に一枚へ混ざった感じ。

 それが今聴いても、いがいと味のある面白い風味のアルバムになっている。明るくは無い。けれど久々に聴いて、面白く楽しんだ。

 (1)は重たいニューウェーブな楽想。どっしりしたリズムにフリップの鋭く平たいギターがかぶる。ギターの細かくフレーズが幾本もダビングされた。
 ジャパンをあまりぼくは聴いたことないせいかな、乾いてひねったリズムの耳ざわりはトーキング・ヘッズを連想した。
 カッティングからディストーションのロングトーンまで。さまざまなギターが飛び交う。ポップではないが、面白いロック。
 なお最後でギター・ソロが始まった瞬間に急速フェイドアウトという、謎なアレンジが施された。

 さらにリズムの重たさを増した(2)は、バンドっぽいグルーヴがうっすらある。アメリカでなくプログレ的なイギリス風味だが。低音のメロディが這い、ドラムとベース、ギターがアンサンブルをきっちり作った。サビでふわっと浮遊する感覚が良い。
 これも比較的、ポップ。いや、サビで揺蕩う感じはいい心持ちかもしれぬ。
 実際この曲は、シングルで切られた。なおシングル同収の3曲"Gone To Earth","Tallow Moon","Dark Water"はすべてアルバム未収録だ。

 ちなみにもう一曲のシングルが(6)。こちらのカップリングは同曲のリミックスとショート・バージョン。いずれにせよアルバム未収録。この未収録でシングルにも購買意欲を増させるあたり、イギリスっぽいシングル展開だ。

 さて(3)。これが一番、クリムゾンっぽいかな。ひしゃげた電子加工したボーカルが入るけれど、シンプルながらザクッとしたギターや和音感が、80年代とも90年代とも、どちらともとれるクリムゾン風の重厚さと大仰さあり。
 中盤でフリップの歪ませた音色で伸びやかに広がるギター・ソロが楽しめる。10分と長めに設定され、いくつもの音色でギター・ソロが広がるしくみ。

 (4)もクリムゾン寄り。特に90年代の。しかしボーカルの存在感が強く、混在した立ち位置だ。ざらついて無機質なギターのフレーズへ、ねっとりしたたる歌声が載っていく。残響を排除したギターと含み持たせたボーカルの対比が面白い。
 ただしちょっと単調かな。移動中にイヤフォンで聴く分にはいいのだが、スピーカーで対峙して聴いてると、もう少し展開が欲しくなる。

 (5)あたりからフリップのアンビエント風味が強まってきた。
 重たくザクザクしたエレキギターに、多重録音のボーカルが載った。タイトルからクリムゾンの曲を当然連想するが、あまり関連性は無い。電気加工で潰したボーカルに共通性を見出してもいいが、根本でリズムが重厚すぎてスピード感が物足りぬ。
 
 あまり起伏無く淡々とした歌声。ギターは我関せずと鳴り、中間部のシンセなブレイクからリズム隊とギターの深淵に移り変わった。シンセがランダムに鳴り混沌へ雪崩れる。この辺は即興かもしれない。
 ただししぶとくボーカルが現れたりと、インプロへ進行はぎりぎり踏みとどまった。
 終盤はフリッパトロニクスの白玉が唸る。凄みのある響きで寛ぎは無いが、アタックを抑えた音程の変化が降り注いだ。

 前述のとおり(6)もシングル。とはいえポップさは無く、本盤収録は17分と長尺で作曲クレジットはDavid Bottrill、シルヴィアン、フリップ、トレイ・ガンの連名。David Bottrillは本盤でエフェクトやプログラミングを担当。
 要は4人のインプロってことか。打ち込みビートが鳴り響き、フリップがギターを唸らせる。

 ただしセッションの生々しさは無く、リズム・トラックへ淡々とフリップがあとからギターをダビングしていったかのよう。シンセ風の白玉も覆われ、広がりある。単調なリズムの酩酊感と、ギターの交錯が聴きものか。
 シルヴィアンは呟き、おもむろに多重トラックの歌声へ。とはいえおかずの域は出ない。かなりフリップ色が強い。
 スパッと短く刈り込み、シルヴィアンの歌の部分を強調したら、乾いたニューウェーブなエレクトロ・ファンクな曲へ仕上がったかも。やはりアンビエントっぽさを強調したいフリップのエゴが勝ったか。
 
 最後の(8)はフリップの単独曲。フリッパトロニクスを存分に広げた。それでも8分程度に収めたあたり、アルバム全体のバランスを意識したか。でも一方で(7)は冗長なほど長く弾いた。このへんのバランス感覚は謎。
 本曲はワウとテープ・ディレイを駆使して、ふくよかな残響と蕩ける酩酊感を高らかに表現した。これまでの低音や鋭い凄みは無い。

 穏やかに上品に、しとやかだが色気は無く乾いた空気で。エレキギターのサイケなソロをじっくり楽しめる。似たようなフレーズ感が続くが、単純ループではない。細かく聴くと微妙に変化し続けてる。
 この時代には一発録りのインプロで実現するような、エフェクターが存在しないかな?ダビングを重ねてるのかもしれない。

 こういうディレイでループさせながら重ねていく演奏は、00年代以降に東京のライブハウス・シーンで色んな人の演奏を聴いてきた。
 だから2016年の今聴くと、このアプローチを取るフリップはかなり時代を先取りしてたと思う。

Track listing
1. God's Monkey 5:01
2. Jean The Birdman 4:10
3. Firepower 10:27
4. Brightness Falls 6:06
5. 20th Century Dreaming (A Shaman's Song) 11:53
6. Darshan (The Road To Graceland) 17:18
7. Bringing Down The Light 8:31

Personnel:
Guitar, Electronics [Frippertronics] - Robert Fripp
Guitar, Keyboards, Tape, Vocals - David Sylvian

Chapman Stick [Grand And Tenor], Vocals - Trey Gunn
Drums, Percussion - Jerry Marotta
Percussion - Marc Anderson
Vocals - Ingrid Chavez
Effects [Treatments], Percussion [Sampled Percussion], Computer [Computer Programming] - David Bottrill

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