The Zombies 「Still Got That Hunger」(2015)

 等身大、しかし枯れない脂っけと現役感が溢れる、大人のアルバム。

 4年ぶりの新譜な本盤は全10曲で37分。まさにLPサイズ。パッケージこそCDだが、昔ながらの規模感で、伸び伸びと新譜を出した。
 ジャケット絵はテリー・クワーク。"Odessey and Oracle"も担当で、本作の中央にはその盤が小さく描かれた。本盤のタイトルは"Still Got That Hunger"。「まだ腹が減ってる」とか「まだ満足してない」って意味だろうか。
 音楽的にも、ビジネス的にも、過去だけを見つめず等身大に勝負をかけるスタイルを象徴してるような気がする。

 ゾンビーズとして6枚目のスタジオ作。60年代に解散後、バンドとしてはブランク長かったため作品は少ない。
 けれど90年代後半からライブ活動を手始めに再開したゾンビーズは、娑婆っ気が抜けないロッド・アージェントと、おっとり歌を続けるコリン・ブランストーンがちょうどいいバランスを持ってバンドが続いてる感じだ。

 メンバーは70歳がらみ。もう隠居したっていいし、オールディーズ・ショーの営業でも行けるはず。しかしオリジナル・アルバムできっちり勝負するスタイルがカッコいい。しかもむやみに予算かけたり若者にすり寄りもしない。あくまで自分の価値観を頑固に提示した。
 70歳を超えてなお、甘酸っぱいメロウな新曲を投入できる創作力が凄い。

 メンバーは前作"Breathe Out, Breathe In"から変化なし。ロッドがアージェント時代の仲間Jim Rodfordをベースに招き、その息子がドラム担当。前作から参加のSSWでもあるTom Toomeyにロッドとコリンの5人編成だ。
 04年に他界したポール・アトキンソンは別として、もう一方のキーマンだったクリス・ホワイトは参加せず、ヒュー・グランディーも本作に名前は無い。
 あくまでロッドがゾンビーズのブランドを作って活動するスタイル。

 けれどビジネス的なチャンスでは、それなりに結集するようだ。クリスとヒューも加わるオリジナル・ゾンビーズの北米/英ツアーを、彼らの最大傑作"Odessey and Oracle"(1968)全曲再現ライブとして、本盤発売の同年に行った。
 つまりゾンビーズの過去ビジネスも本盤のプロモーションも同時に行うスタイル。いやはや、そつがない。

 本盤はクラウド・ファウンディング・サイトのPledgeMusicで予算を募り発売に至った。オファーの143%達成と見事な結果を残して。
http://www.pledgemusic.com/projects/thezombies
 高額投資のご褒美リストを見ても、むやみにミート&グリートで自分の身を削ったりしない。曰くある古着を中心に、無理なく過去の資産を消化する姿が着実で良いな。

 プロデュースは前作のようにセルフ・プロデュースの手作りでなく、Christopher Marc Potterにほとんどを任せた。ヴァーヴやストーンズを手掛けた人。押さえるところは、きっちり予算立てて仕上げた。こういうところも無駄な冒険や、野暮さが無く地に足がついている。派手ではないが、隙を作らない。

 選曲も実は、発想がにくい。基本はロッドのオリジナル。一曲だけコリンの曲を採用した。そのコリンの曲(8)は、ソロ作"The Ghost of You And Me"(2009)のカバー。
 さらに(5)はゾンビーズ65年の売れなかった米/カナダ限定シングル曲"I Want You Back Again"をリメイク。
 コリンのプライドもゾンビーズのマニアも、ワンマンではないというロッドの鷹揚さも表現できる選曲だ。うーん、そつがない。

 肝心の音楽に触れる前に、ずいぶん文字数がかかった。そのくらい、この盤は過去の歴史と密接に結び付き、なおかつ地に足がついている。それを言いたかったんだ。たんなるエゴや道楽のリリースじゃないってことを。べらぼうな予算かけてリクープへシャカリキにならぬ道筋まで残す、手堅さも年寄りの知恵が詰まってる。

 ということで、曲も聴いてみよう。これでつまんなかったらどうしようもないのだが、あんがい楽しい。メロディのみずみずしさが健在がまずある。なおかつロッドの鍵盤を前面に出しつつ、エレキギターを生かしたバンド・サウンドで仕上げた。歌も声が出てるし。
 確かに斬新さは無いが、70歳越えのベテランにそれを求めない。むしろ懐メロに陥らぬ、新曲感があるほうが凄い。70年代の未発表曲と言っても不思議じゃない生き生きさと、枯れた味の双方が漂ってる。
 
 はっきり言うと、ドラムのリズム感がもっさりしてて、あまりアンサンブルに溌剌さは無い。でもバンド感って意味では良いかな。打ち込み無し、アナログな響きも含めて。

 リズムのカウントから始まり、ブルージーにギター・ロックで盛り上がる(1)。これも、ノスタルジー込めた曲かと思わせて、サビは二拍三連のメリハリつける。うーん、しぶとい。
 続いてロッドのピアノが素朴に響く(2)へつなぐセンスもばっちり。切々と、いや"切"くらいの情感で、おっとり畳みかけるメロディがしなやかだ。

 サビはハーモニーかぶせてきっちり盛り上げる。何度も書くが、70歳過ぎの新曲が瑞々しいってどうよ。しかも中盤はオルガン・ソロも。60年代色バリバリだ。この辺、過去の振り返りと取るかもしれない。けれど敢えて、キャリアを踏まえた新曲と聴きたい。
 ドラムのドタバタさがもどかしいが、ベテランらしい懐深さを感じる。

 (3)もピアノがイントロ。ロッドのピアノは指がべらぼうに回るわけじゃ無いけど、妙に着実な味がある。これもブルース色が滲む。ハーモニーやピアノ主体のアレンジが、暑苦しさを抜いてポップに聴かせた。
 この60年代っぽい旋律感が、変わらぬメロディ・メイカーっぷりを表した。

 むしろ溌剌さは(4)か。"ニューヨーク"と連呼しアメリカへの憧憬を無邪気に歌い上げる。どんな気持ちで作ったのやら。北米ツアーの客受けを意識か。その計算高さも、微笑ましい。 
 大きなスケール感を持つ曲で、ライブはスタジアム級でも映えそうだ。演奏はいまいちモッサリしてこじんまりしてるが。この曲なんか80年代のイメージ。

 セルフ・カバーの(5)は、アレンジの骨格はそのままにテンポとキーを若干落とし、ゆったりしたグルーヴを出した。今のバンド・アレンジに仕立ててる。オリジナル・テイクの危うさはすっかり消え、落ち着いたもの。その一方で、サビでの性急なムードは鈍らせてない。たいしたもんだ。

 ゆるやかなエレピとギターで寛いだ(6)は、B面開始にしては優しげ。LPで考えたら少し落ち着いた幕開けだ。共作のキャサリン・アージェントは、ロッドの身内だろう。
 着実に刻むサビの旋律が愛おしい。ドラムの危ういリズム感以外は、カッチリまとめたアレンジ。やっぱりドラムを何とかしてくれないかなあ。

 歯切れ良いフレーズの組み立てが魅力的な(7)は、和音がころころ変わって心地よく聴けた。本盤はサウンドの統一さはあるけど、曲調はいがいとバラエティさを意識してそう。
 素朴に、しかしきっちり切り込むジャズ・ピアノが渋い。ハーモニーをひときわ分厚くかぶせて、ポップさも強調した。良い曲だ。

 カバーの(8)はストリングス・アレンジだった原曲を、あっさりロックに仕立てた。どっちが良いか。ぼくの好みはストリングスな原曲だが、この曲だって悪くない。アルバムではもちろん違和感なく収まってるし、むしろビートが強調されて本盤で見事にリメイクされた。
 
 ここまでのロッド一色が、アルバム終盤ながらコリンの色を加えることでペース・チェンジにもなってる。逆に、ここまで自分の色を染めたロッドのしたたかさを評価すべきか。ロッドがあちこち、締めてる気がするなあ。

 そしてロッドはソロで再びアルバムを自分の懐へ引き戻す。(9)はピアノ独奏のアレンジ。コリンが柔らかく歌い、二人の世界を素朴に作った。フレーズ終わりで、緩やかに揺れる歌声が青白く漂う。
 
 アルバム最後(10)は、甘めのスローなロック。想定する聞き手はやはりある程度の歳だろう。寛ぎと安心と、活力を促す情感を漂わせた。
 破壊衝動なんてもってのほか。熱気もいらない。ただ、じわじわと前向きになればいい。そのくらいの温度間でじっくり燃え立たす。もちろんBGMで流れてもおかしくない飾り立てで。
 アレンジはシンセ・ストリングスを足したり、一節をロッドに歌わせたりと手が込んでる。

 あえて飾り立てぬ(9)で締めず、きっちり作りこんだ(10)で幕を下ろすあたりも構成がしっかり。
 本当に本盤は、隙が無い。

Track listing:
1. Moving on
2. Chasing the Past
3. Edge of the Rainbow
4. New York
5. I Want You Back Again
6. And We Were Young Again
7. Maybe Tomorrow
8. Never Get Over You
9. Little One
10. Beyond the Borderline

Personnel[edit]
Rod Argent: vocals, keyboards
Colin Blunstone: vocals
Jim Rodford: bass guitar, backing vocals
Steve Rodford: drums, percussion
Tom Toomey: guitar, backing vocals

関連記事

コメント

非公開コメント