Kramer/Carney/Hild  「Black Power」(1994)

 真剣に聴きこむ盤とは言い難いが、意外と聴きごたえはある。

 (1)だけ聴いて「あ、けっこういいな」と思うが、その曲の途中で既に飽きてしまい。アルバムの印象がさっぱり残っていなかった盤。久しぶりに聴き返した。

 クレイマーの全盛期に色々リリースされたコラボ盤の一枚。このメンツではシミー・ディスク極初期の盤"Happiness Finally Came to Them"(1987)に続く。
 なお本盤ではボートラとして、"Happiness~"収録の18曲から11曲がリイシューされた。(13)以降が、それにあたる。既に94年頃、"Happiness~"が入手困難だったため、だろう。
 実際僕は90年代半ばはあちこちのレコ屋でクレイマーの盤をしつこく探したが、"Happiness~"は見たことが無い。でもジャニスかワルシャワにはあったかも知らんな。ジャニスは行ったことないが。なお今は双方、mp3で簡単に手に入る。
 

 メンバーのRalph Carneyは78年デビューのオハイオ出身なニューウェーブ・バンドTin Hueyのメンバーでサックス奏者。Daved Hildはパンク・バンドThe Girlsや、The Wooden Birdsに参加のメンバー。なぜクレイマーと縁があったかよくわからない。
 音楽的にはスカム要素がうっすら漂う。全般的に音楽的ではあるが。

 いちおうSSW系のアプローチ、といえるかな。歌詞は不明だが、全般的にメロディは今一つ弱い。クレジットがはっきりしないけれど、たぶんHildの歌と作曲にクレイマーが演奏をつけ、サックスをCarneyが多重録音の構図と思う。
 Hildはドラマーでもあり、実際"Happiness~"では叩いてもいる。だが本盤のドラムはクレイマー人脈でトム・コラのCurlewや、ビル・ラズウェルのMaterialに参加した、ビル・ベーコンが全面で叩いた。

 つまりはクレイマーのワンマンな録音に、リズムだけベーコンが参加。なおギターでボングウォーターのRandolph A. Hudson IIIも演奏クレジットあり。
 
 本盤の聴きごたえは、やはりクレイマーのプロダクション。鍵盤とベースを軸に煙ったサイケな音像は、生き生きとアイディアに満ちている。"Hot Rats"あたりのサックスを連想する、多重録音なCarneyの青白く貫く木管楽器の響きもふくよかで良い。

 本盤の辛さは、楽曲がいまいち弱いところ。チェンバー・プログレ風のドラマティックさはときおり耳を惹くが、メロディの訴求力が圧倒的に弱い。歌もパンチ力に欠ける。たとえば(4)みたいな楽曲、リフはキャッチーだし盛り上がりも良い。でも、どっか物足りない。
 なお(8)はスタンダードのカバー。音質落として鼻歌みたいな歌をかぶせた、ローファイで荒っぽい作り。あとはすべて三人の共作名義になってる。
 あくまでロックな形にこだわり、短い曲をズラリ並べた。

 実はこの盤、轟音で聴くとラフなアイディアを詰め込んだ荒さが、パンキッシュながら確かなテクニックでまとまるスリルが漂う。
 でも小さい音量だと、妙にこじんまりとミックスされている。クレイマーの作戦と思うが、聴きやすいマスタリングなゆえに引っかかりにくいという皮肉な盤になった。

 ビートルズ"I Call Your Name"のカバーを含む、"Happiness~"音源の再録と聴き比べると、この"Black Power"音源は録音もアレンジも演奏も洗練され、へんてこなアイディアをまとまりよく仕上げる構成力がクレイマーに備わったとわかる。

 だから本盤は始末が悪い。聴いて楽しむには物足りない。しかしこうして久しぶりに聴くと、いくつも面白いアイディアやアプローチあり。それでも聴きこむには、ちょっとためらう。作りやアイディアが、よく言えば前衛的。平たく言うと思い付きを片端から仕上げており、アルバム全体のまとまりに欠ける。
 
 クレイマーのアレンジ、演奏、ミックスともに面白いとこはいくつもあるんだけどな。
 みずみずしいが胡散臭く煙るムードを漂わす、シミーらしい盤ではある。

Track listing:
1. Tears Come Down 2:27
2. Speed Shooting 4:23
3. Speaker of the House 6:06
4. Sweetheart 3:42
5. Wish 1:12
6. Infrared Asylum Green 3:34
7. The Ballad of Soap 2:19
8. These Foolish Things 3:59
9. The Ballad of Jim Jones 2:19
10. Thanks for the Tinklers 1:13
11. The Ballad of Florida 2:52
12. Dangerous Cult Following 3:47
13. Hands 2:29
14. Telephone 1:27
15. Clown 3:34
16. Nothing 3:03
17. Slowly 2:32
18. Wanda 1:49
19. Larry 2:57
20. Name 5:01
21. Turkeyfaced 1:58
22. Javalena 2:15
23. End 2:34

Personnel:
Ralph Carney - saxophones, guitars, vocals
Daved Hild - vocals, cover art
Kramer - bass guitar, piano, mellotron, Hammond organ, tape, backing vocals, production, engineering

Bill Bacon - drums, percussion
Randolph A. Hudson III - guitar

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