Ruins 「Infect」(1988/1993)

 リミックスの凄さを痛感した、初期ルインズのアルバム。

 オリジナルのタイトルは"Ruins III"で、EP、12"シングルに続く初のLP盤となる。この当時のインディーズはそのシートも含めシングルがけっこう重要だった気がする、LPは意外にハードルが高かったような。リアルタイムとはいえ音盤チェックはしておらず、あいまいな知識ではあるが。

 元はYBO2の北村昌士が主宰の、トランスから88年に発売した。吉田達也の磨崖仏で最初の番号を冠されたLPでもある。この音源は聴いたことない。本盤は93年に北村の次のレーベルSSEより再発されたもの。
ぼくの盤はCD-Rだが、プレス版もあるのかな。

 なお本盤に収録した"B.U.G."のリミックスは、オリジナル盤より1分20秒ほど短い短縮版。みっちり75分の収録時間の限界もあったか。

 本盤の特徴は吉田自身の手でリミックスがなされ、新旧両方の音源が収録の全24曲入りとなったこと。

 特筆すべきはリミックス後のクリアさ。冒頭の当初音源は籠り潰れ、ディストーション効きまくりのベースが唸り、ドラムが背後でぺらっと鳴るのみ。ボーカルも痩せて薄く鳴り、なんともパンクな仕上がりだ。当時の自主製作ってこんなもの?

 ところがリミックス版では分離も良く鳴り、パンチ力がぐっと増した。どういう仕組みだろう。リミックスってことはマルチがあったってことか。マスターのEQ操作でここまで分離が改善するものか。ボーカルを立ててドラムを再録音したのかとも思いたくなる、すっかり変貌した対比が楽しめる。
 ちなみに吉田は高円寺百景などでドラム再録音の再発を行っており、決してオリジナルの再発にこだわっていない。あくまでもその時点でベストのサウンド構築が狙いのようだ。

 85年に活動開始のルインズは、この前年87年にベースが二代目の記本一儀に変わっていた。勢いで炸裂するハードコアな展開から、よりプログレ的な緻密な構成へ移った。
 ドラムとベースのみのアレンジもあまりこだわらず、記本のバイオリン演奏も聴ける。ハイピッチで叩きのめす痛快なドラミングと、オペラ要素も取り入れた吉田の歌声も冴えている。
 
 元はギタリストで、よりロックな色合いを足した三代目ベースの増田隆一から、譜面も即興も自在にこなし楽曲提供まで成し遂げルインズを究極に高めた才人の四代目ベース佐々木恒。
 このあと世界のアンダーグラウンド界に確固たる影響力を放つルインズが、本盤以降さらに加速していく。

 曲タイトルも、この時点ではシンプルに単語1語で名付けられた。オノマトペを元にした造語が連発は、"Burning Stone"(1992)以降まで時間が必要だ。
 ルインズを稼働して3年、コンセプトを固めることなく進歩と進化していたルインズ。初LPながらアイディア豊富さと、スピード感は新鮮に封じ込められた。

 いや、スピード感は後年のほうが凄いか。本盤ではまだ手数も少なめに聴こえる。ボーカルも抑えめか。このあと、驚異的なスタート&ストップを駆使した変拍子の嵐はますます加速していく。

 楽曲は数曲を除き、1~2分と短め。次々に曲を重ねる。重厚なイントロで中盤から加速する(1)は、ボーカルとユニゾンでバイオリンが響く。ベースは重たく轟き、既にこの時点でルインズはライブ性は意識してなかったとわかる。
 音質の劣悪さは否めず、中盤のバイオリン・ソロはゴムをかきむしってるかのよう。

 (2)は二人のボーカルと対比するバイオリン。改めて聴き返すと、ダビングが一杯だな、この盤は。コンパクトでポップな楽曲は、チェンバー・プログレの構築美をシンプルな構成でしっかり作った。タムとスネアの音色違いでリフを回すドラムもかっこいい。

 (3)はぐっとロックな展開。倍テンで幾度もブレイクを入れ、メリハリを付けた。変拍子の明瞭な歯切れよさも味わえる。次々に場面転換を繰り返す複雑な構成も、軽やかにこなした。
 ドタスカ上下するノリと、白玉で甲高く歌う対比が良い(4)。ボーカルを多用し楽曲のシンプルさに彩を付けた。中盤でテンポダウンし、シンフォニックに盛り上げる。デュオ編成だが、こういうとこはもろにプログレか。

 (5)のイントロはきれいなシンバルワークに、静かな鉄琴が加わった。音域を上げたベースが軽やかに疾走する。展開せずに終わるが、この涼やかな楽曲が良い。
 一転して(6)はいぎたなく潰れたベースが畳みかける。その後のライブでもこの曲は聴いた記憶ある。ハイテンションなイントロから、ドラムのキメへ。合間に、リバーブたっぷりに苦し気な声が絞り出される。この曲も場面展開が激しい。中盤はミニマルに進行した。

 (7)も重たい印象だが二人の甲高いボーカルが飛び交う、ユーモラスさを持つ。進行は目まぐるしく変化した。
 ふたたびバイオリンがテーマを補強するアレンジな(8)。ごつごつした階段のようにメロディが上がっていく。中盤はアドリブ的に膨らむ。この時点では譜面かもしれないが。
 構築美と即興が自然に同居する、ルインズの自由度はこういう曲が顕著だ。

 ハイハット連打の高速スピードな(9)。こういう真っ正直な進捗は、その後はあまり聴けない印象あり。もっと複雑さを志向した。ベースのフレーズを軸に、ボーカルがある時は寄り添い、時にカウンターでぶつける。中盤のベースとドラムのユニゾンが産む爽快さが、この曲の魅力だ。

 エイトビートから変拍子へ。ずぶずぶと(10)は深みへ聴き手を引きずり込む。テンポは決して速くないが、ハイピッチのドラムが鋭く響き、ベースが歪んだ響きをばらまく。この曲も、手数はシンプル。のちの吉田だと、もっと叩きのめしたろう。

 (11)はベースの醍醐味が一杯だ。歪んだ音色も含めて、味わい深い。音域はベースにしては高め。いきなりブライトな響きでフレーズ刻んでドラムに雪崩れる。好きな曲の一つ。
 複雑すぎず、ドラマティック。中盤はテンポを入れ替えながら緩急を猛烈に効かせた。
 とにかくベースの音色がくるくる変わり、世界観が鮮やかに変化するさまが良い。

 アルバム最後の(12)は重厚に唸る。派手に盛り上げないが、物語性は強い。ファルセットと地声を存分に入れ替える、吉田の歌が冴える曲だ。中盤ではバイオリンをシンセ風にダビングしてスリルを強調した。半音上がって同じフレーズを弾くとこが好き。

 オリジナルの音源は酷い音質で、溢れるパワーもアイディアも過飽和した。リミックスでこそ、本盤の真価は味わえる。

 なお本盤はおそらく入手に手間取るはず。中古盤で探すしかない。元のLP盤音源は、2015年にトランス・レーベルからのEPも合わせた盤が出て、入手は容易になった。初期音源集、の観点ではSkin Graftが01年に出したコンピもあり。こちらはMP3版が簡単に落とせる。
 

Track listing:
1. Government 2:36
2. Hallelujah! 5:00
3. Grudge 1:48
4. Masacari 1:59
5. Komorebi 1:32
6. B.U.G. 6:37
7. Fragment 1:10
8. Ripples 2:36
9. Divided 2:13
10. Octopus 3:17
11. Dadaism 4:07
12. Infect 5:55
13. Government 2:36
[Remix]
14. Hallelujah! 5:00
15. Grudge 1:48
16. Masacari 1:59
17. Komorebi 1:32
18. B.U.G. 5:10
19. Fragment 1:10
20. Ripples 2:37
21. Divided 2:13
22. Octopus 3:17
23. Dadaism 4:04
24. Infect 5:52

Personnel:
Drums, Vocals, Percussion :吉田達也
Bass, Violin, Vocals :記本一儀


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