TZ 7383:John Zorn "The Goddess - Music For The Ancient Of Days"(2010)

 涼やかでミニマル寄りな、ジョン・ゾーンによる疑似バンドの幻想で爽快なラウンジ・ジャズ。

 ゾーンゆかりのメンバーを集めて順列組み合わせ的にさまざまなバンド的なセッションを行う一枚。本盤はピアノ、ハープ、ギター、ビブラフォンと4つのリード楽器を配置して、めくるめく幻想的なアンサンブルを提示した。メンバーは全員、TZADIKでは馴染みの顔触れ。作曲はすべてゾーン。録音時に指揮もしていそう。でもTZADIKの本盤解説には、ファイルカード作曲とあるな。確かに場面展開は素早く潔い。

 ファイルカード作曲から連想する、ゾーン活動初期の前衛性や頭でっかちさは皆無。スリリングでリリカルなラウンジ・ジャズが詰まった。タイトなアンサンブルは本盤でもたっぷり味わえる。滑らかでスピーディな演奏に、歯切れ良いアドリブがするすると挿入される。ソロ回しでなく多重ソロっぽい場面もあり。

 テーマが執拗に繰り返されるアレンジで、そのままそっとだれかのアドリブがハイルう感じ。
 ファイルカード・システムは無秩序で聴きづらい前衛性でなく、親しみ持たせる美しい音楽を作れるっていう象徴の盤とも言える。

 ジャケット絵は日本の中堅アーティスト近藤聡乃の"てんとう虫のおとむらい 番外編05"(2007)を採用した。
http://akinokondoh.com/jp/works/#

 アルバムのコンセプトは、ゾーンのオカルト趣味に沿って古代白魔術からイメージした楽曲群。同年2月発売(本盤は6月発売)な"In Search of the Miraculous"(2010)に続く盤となる。頌歌(Ode)にこだわったようだが、すべてインスト。

 アンサンブルの顔触れは、前年4月発売"Alhambra Love Songs"(2009)のロブ・バーガーによるピアノ・トリオな疑似バンドを拡大とある。
 しかしベースがグレッグ・コーエンからトレバー・ダンに変わっており、拡大って感じはしない。さらにマーク・リボー、カール・エマニュエル、ケニー・ウールセンを迎えた。
 全員がリーダーを張れる格をもち、本来はうるさくなるほど豪華な顔ぶれながら、そこはゾーンの手腕がさすが。きれいにコントロールされ、各人の見せ場を作りつつスッキリ見晴らし良いサウンドをあっさり作り上げた。

 ロマンティックなムードが充満し、ノイジーな場面は皆無。歯切れ良いドラミングに、小気味よくベースが飾る。コーエンやジョーイ・バロンのように拍へ音を引っ掛けず、タイトにまくしたてるリズム隊だ。
 ぱっと調べただけだが、このダンとベロウスキーのベースとドラムって盤は他に見当たらない。ほんとゾーンは順列組み合わせを慎重に選び抜いてるみたい。

 「魔女/イシュタル(古代メソポタミアの愛と美の女神)/エプタメロン(七日物語:仏ルネサンスでナヴァル:著の72篇短編集)/白魔術/月を下ろす(欧州古代宗教ウィッカで、この儀式があるらしい)/デルファイ(古代ギリシャ都市)への頌歌」と、それっぽい曲名が並ぶ。

 厳かだが大仰でなく、スピーディだが気品がある。ピアノを軸にエレキギターが味わいをつけ、華やかにハープが鳴り凛々しくビブラフォンが叩かれる。
 どこにも隙が無く、なおかつ譜面物に留まらない奏者の生き生きしたアドリブもあり。ほんとうによくできたアルバムだ。
 良い楽曲、上手い演奏、やりすぎないプロデュース。三拍子そろっている。お薦めの一枚。ジャケットがきれいで、持ってるだけでも可愛らしい。

Track listing:
1. Enchantress - 7:44
2. Ishtar - 5:36
3. Heptameron - 5:17
4. White Magick - 6:37
5. Drawing Down the Moon - 5:49
6. Beyond the Infinite - 11:51
7. Ode to Delphi - 4:43

Personnel:
Rob Burger - piano
Ben Perowsky - drums
Carol Emanuel - harp
Marc Ribot - guitar
Kenny Wollesen - vibraphone
Trevor Dunn - bass


関連記事

コメント

非公開コメント