Prince 「Diamonds and Pearls」(1991)

 25年間、本盤を聴かず嫌いしてた。セッションを生かし寛いだ盤だ。

 売れ線のヒップホップ色の吸収と、バンド・セッションの生々しさ。水と油の異物さを、一曲にまとめず曲ごとに比率を変えた。二面性を持つアルバム。その隙間を丁寧なアレンジとプリンスの多重ボーカルで溶かして埋めた。

 本盤はずっと、プリンスの作品で苦手だった。リアルタイムの印象から、硬くて売れ線狙いで中途半端に時代へすり寄った気がして。プリンスが他界し、改めて聴き直してたら前半2曲こそが異物であり、ほんとうの意味でバンド・サウンドを意識した盤だ、と思い始めた。

 90年くらいから10年くらい、ぼくは虚像のプリンスを探し続けていた。でも、そんなファンが多かったとも思う。「最近のプリンスはだめだ」「80年代の冴えたプリンスと違う」と。だがそれは解釈であり、鑑賞ではない。彼が死んで虚心になり、まとめて彼の盤を聴いてたら、考えががらり変わった。
 「こういうサウンドが聴きたい」じゃなく、流れる音楽を素直に楽しめるようになった。それはもう、新しい音楽を作るプリンスがこの世にいないからだ。

 本盤は冒頭の2曲がとにかく苦手。なおかつ妙に軽くて硬い印象が強かった。超傑作の"Lovesexy" (1988)を経て、売れ線まっしぐら(と、当時は思ってた。今はちょっと考えが変わった)な、"Batman" (1989)へ。
 セールスに結びついたかは別として"Graffiti Bridge" (1990)も、同様にキャッチーさを狙い。全体的にはファミリーを作って一線を退き、プリンスは親分役狙いのパワーダウンかと思ってた。

 だが"Graffiti Bridge" (1990)もいまいちパッとせず、さらに売れ線を狙ったのが本盤かと。そんなふうにとらえてた。実際本盤は、めちゃくちゃ売れたし。キラキラで写真が視線で動くジャケット写真を筆頭に、バブル時代の狂騒的な派手さをプリンスが狙ったか、と。実際、シーンの最先端で牽引する80年代のマジックは、見かけ上感じられなかったし。

 ぼくが当時のプリンスに抱いた幻想はコンパクトな打ち込みや多重録音のアンサンブル。もっと密室的なものだった。もちろん予想できないメロディも聴きたかった。
 だが本盤はものすごく中途半端に聴こえた。キャッチーなメロディもあまり感じられず、リード・シングルの"Gett Off"はつまらないラップに聴こえたし、"Cream"も地味で"Kiss"の二番煎じに思えた。どうにもアルバムへぼくの耳のピントが合わなかった。

 東京などツアー先で録音したってエピソードも、なんか世界中がスタジオだぜってセレブ気取りだが、実際はやっつけ仕事なドサ回りに思えてしまったし。いや、わかってる。誤解だ、これは。

 そんなわけで発売当時には繰り返し聴いたが、"Love Symbol"(1992)を筆頭に次のアルバムが出ると、本盤を聴き返すことは無かった。
 本盤の印象が変わったのは、たぶん02年頃。出張帰りに飛行機乗ってた。機内音楽をイヤフォンで聴いてて、夜の羽田へ着陸するときに"Diamonds and Pearls"がかかり、ぶっ飛んだ。

 なんてゴージャスで、美しくて繊細な曲なんだ。
 東京の夜景が、闇に広がる多くの明かりが広がる地上の星々を見ながら聴く"Diamonds and Pearls"に、しびれた。家に帰ってすぐ、アルバムを聴き返した。
 ・・・でもやっぱりピンとこず。本盤はタイトル曲だけかな、って思ってた。

 次に印象が変わったのは、つい最近だ。今年の4月末からYoutubeに溢れた膨大な動画をいろいろ見てて、"Cream"のアコギ演奏に惹かれた。04年にMTVへ出たときの映像らしい。

 アコギで爪弾く"Cream"。観客が歌いだし、その声を聴いて茶目っ気たっぷりに首をかしげ演奏を止めるプリンス。とても簡素な演奏で、なおかつ飾りっ気ない演奏を聴いて、なんてキュートな曲だと思った。

 これを見て、本盤を聴き返した。すごくピュアな盤だったんだ。ちっとも今まで、気づかなかった。
 なお流行りのラップを取り入れる形は、どうにもぎこちない。プリンスが自分の歌声をメロディに縛られず音楽へ溶かしこむには、あと10年後まで待つ必要ある。

 本盤がNew Power Generationと共同名義はダテじゃない。"Graffiti Bridge" (1990)で他人の個性を素直にアルバムへまとめたプリンスは、本盤で伸び伸びとセッションを楽しんだ。
 レボリューションはバンドの形態をとりつつも、根本はプリンスのバック・バンドだった。だがNew Power Generationはもう少しだけ、自由をメンバーへ許してるように聴こえる。

 もっともしっかりとペイズリー・パークでダビングや差し替えはしてた可能性あり。
 ツアー先で録音を重ねるのは、JBやP-Funkを筆頭の先人に倣ったかもしれない。だがプリンスは作りっぱなしはせず、きっちり自分の満足するクオリティは地元で行った。そのへんの完璧主義は、しっかり本盤で生きている。

 聴き返す中で初めて、Prince Vaultの本盤記事を読んでみた。本盤は旧作をつかわず、91年に新たな録音をした曲ばかりを集めた、という。
 Nudeツアーの合間にロンドン、東京、そしてカリフォルニアで録音曲もあり。
 90年の11月からアルバムにまとめはじめ、翌年5月までに4回の曲目変更有り。その過程でボツった曲もある。そして最後に収録が"Gett Off"。意外だった。この曲が、一番先と思い込んでいた。真っ先のシングルでもあったし。

 ぼくが苦手な"Thunder"も3回目の変更で登場。どうやらこの盤は変更を加えるたびに硬くなっていったみたい。プリンスはバンド・メンバーとの寛ぎへ、時代の鋭さをアルバムに与えたかったのかもしれない。

 (1)の"Thunder"が苦手なのは、冒頭の暑苦しい多重コーラス、そしてイントロの打ち込みビート。ファンキーさはいい。ドラムのドタスカした鳴りと、オーケストラ・ヒット風のおかずが売れ線狙いで苦手だった。
 本項を書きながら繰り返し聴いてたが、やっぱりアレンジの音色が馴染めない。普通にバンド・サウンドでエレキギターのリフで聴いたら、楽しめるかも。本テイクではオマケ程度にしかギターが鳴らない。この曲のライブテイク聴いたら、印象変わるかもしれないな。
 その食わず嫌いであまりじっくり聴いてなかったが、中盤からさまざまな場面展開やダビングを細かく施し、メロディのシンプルさと対照的に構成はかなり凝ってると今さら気が付いた。

 ロンドン録音の(2)の"Daddy Pop"も、安っぽい女性コーラスのイントロから、ひしゃげた声加工のボーカルが気にくわなかった。サビのピッチ変えた高音に女性コーラス足したプリンスの歌声も、なんか搦め手の勝負に聴こえて。ドタバタな打ち込みドラムも、ちょっとなあって。実際は生ドラムと打ち込みのダビングみたい。これも今回、ヘッドフォンで聴いて気が付いた。

 (3)の "Diamonds and Pearls"は前述のとおり、滑らかでしなやかな演奏でここ15年くらいは好きな曲だった。逆にアレンジそのものはバンド・アンサンブルを生かしたむしろ簡素なもの。ストリングスはシンセだ。豪華だが素直な構造ってのが、今回の気づき。エレキギターを筆頭に、フレーズが寄り添って厚みを出している。


 (4)の"Cream"も、今聴いたらこのアレンジも良さがわかってきたが。やっぱりドタバタしたドラムの音色が押しつけがましい。逆にこの曲はローファイなラジオ放送とかで聴いたほうが、耳に馴染むのかもしれないなあ。飾りを取り払ってシンプルに聴きたい。


 東京録音の(5)"Strollin' "。これはセッションっぽい流した感じが好きだった。街を車で流してくスマートなイメージが脳裏に浮かぶ。死後に出たムックの一冊に、このときの録音風景のレポート記事が載っていた。一発録り風で、とても緊迫した雰囲気だってのが意外だった。
 バンド・メンバーは間違えないように、張りつめてたらしい。その気持ちはわかる。
 その一方、プリンスはボーカルも同録でライブ風だったという。寛ぎのアンサンブルを求め、さらに新しい地平をプリンスは狙ったか。しかし多重ボーカルのダビングなど、個性を込める手間はしっかりかけている。

 (6)"Willing and Able"も東京録音がベーシック。NPGメンバーで昔なじみのレヴィ・シーサーを共作にクレジット、ラップを任せたことでTony M.にも作曲クレジットが与えられた。
 これも前曲同様にクールなバンド・アンサンブルを軸に多数のボーカル・ダビングを施して、涼し気な厚みあるスピード感を演出した。今聴いてもメロディはあっさりとして、凝らない。むしろ一筆書きみたいな滑らかさが先に立つ。


 そして最後に録音され、もっとも異質な(7)"Gett Off"。録音はペイズリー・パークだが、ロンドン的な硬質さを持つ。ヒップホップへ大胆に近寄り、サウンドはカチカチに硬い。打ち込みビートが全面に張り巡らされ、前曲などのバンド的なしなやかさと対比的だ。むしろこの二面性が本盤のテーマか?(1)や(2)と、(5)や(6)の双方を一枚へ封じ込める意味で。
 今一つノリが重たく、まだ僕はこの曲を楽しく咀嚼できていない。

  MTVの企画ライブで、プリンスはこの曲を演奏。中盤で尻透けズボンを見せつける、ギャグをかっこよくブチかました。この映像を見たのも、つい最近。当時見てたら、この反逆というかひねくれたセンスに惹かれてこの曲への印象が変わっていたかもしれない。
 実際、生演奏なこの曲のほうが、本曲は素直に聴けた。


 ロンドン録音の(8)"Walk Don't Walk"。バンド的ながら、東京セッションと異なり幾分のタイトさを持つ。乾いてる、と言ってもいい。曲調までプリンスは意識して録音場所を変えたのか、たまたま何曲か録ったうちの一曲で気に入ったものを発表か、どちらだろう。なんか86年の旧曲"Rebirth Of The Flesh"と共通するノリを感じた。
 
 ヒップホップ色を前面に出した(9)"Jughead"。プリンスは本盤でラップとの折り合いをつけようと、様々なアプローチをしてる。ここではプリンスはハーモニー役に留まり、Tony M.を惜しみなく前面に立てた。プリンスが起伏薄いメロディを、独特のグルーヴで口ずさむだけでヒップホップの親和性が作り出されるのに。
 あくまでもまじめに、ラップの吸収をプリンスは試みた。次世代ファンクの足掛かりを探っていたのかも。プリンスがヒップホップを吹っ切って、真の独自路線を深めるのは00年を超えてからと思う。

 これも東京録音な(9)"Money Don't Matter 2 Night"。これも正直、苦手。グルーヴィなバンド・セッションなのはわかる。ジャジーさが中途半端に聴こえてしまうのと、ブルージーで下世話なメロディが、いまいち馴染めない。
 くっきりとボーカルを立て、背後のコーラスがあまり前にでない。最初の形を飾りきらず、無造作にそのまま出したような気がして、物足りず。実際は多重ボーカルも含めて、きっちりプロダクションは施されているけれど。

 (10)もヒップホップ色が強い。曲中で前半のタイトルを唄いこむラップを配置し、敢えて買えないことで(7)が差し替えられた曲とわかる仕組み。本来、パンチインなり録り直しもできたはず。あえてラップを前のまま残したのはプリンスの茶目っ気ではなかろうか。気づくやつ、いるかなあ、と。どうでもいいや、と気にしなかっただけかもしれぬが。

 肉感的なバラード(11)"Insatiable"。正確に言うと、本盤は苦手だったがこの曲だけは発売当時から好きだった。それが10年後に(3)"Diamonds And Pearls"も好きになった格好。
 むしろ(11)のほうが、本盤では異質な密室性を持つ。80年代プリンスらしいセクシャルで淫靡な色合いだ。これが気に入ったあたり、当時のぼくはリアルタイムのプリンスでなく、頭の中にある昔のプリンスのイメージを追っていただけ、と恥じ入るばかり。
 とはいえ別にこの曲が古臭いわけではない。
 打ち込みビートっぽい硬質な響きながら、ハイハットを筆頭に生演奏っぽい細かな譜割のリズム、艶めかしいプリンスのボーカル、聴きどころはいっぱいだ。無造作なシンセの音色が、少しばかり安っぽくはあるけれど。

 
 最終曲の(12)"Live 4 Love"は妙に勇ましいアップテンポ。ヒップホップ寄りだが、アンサンブルはバンド・サウンド。ここまでの二種類の要素を、最後でまとめた格好か。
 とはいえのっぺりしたプリンスの多重ハーモニーや、ベタッとオーケストラ・ヒットを伸ばしたようなシンセの音色が野暮ったい重たさを出し、ファンクながらキャッチーさの足を引っ張ってる。
 メロディ要素が希薄なヒップホップながら、シングル的な盛り上がりの潜在力もあるような。最後の最後で、独特なプリンスのシャウトやエレキギターのソロも一瞬現れる。
 92年4月3日、Diamonds And Pearls Tourの東京ドーム公演でライブ中盤に本曲は配置された。とりあえず盛り上がりを支える曲、としては意識してたようだ。

 改めてまとめても、プリンスのキャリアで筆頭と言える完成度ではない。やはり実験、もしくは試行錯誤の一里塚な印象だ。とはいえ決して妥協ではない。もう少しこの盤は、さらに聴きこんでみよう。

 でも、ほんとに音色の選び方が時代だよなあ。少し古びてる。大仰なドラムやシンセの音色は、逆にリアルタイムで似たようなコケ脅かしな別のミュージシャンの音もいろいろ当時に聴いたため、どうも素直に味わえない。

Track listing:
1. Thunder 5:45
2. Daddy Pop 5:17
3. Diamonds and Pearls 4:45
4. Cream 4:13
5. Strollin' 3:47
6. Willing and Able (Prince, Levi Seacer, Jr., Tony Mosley) 5:00
7. Gett Off 4:31
8. Walk Don't Walk 3:07
9. Jughead (Prince, Tony Mosley, Kirk Johnson) 4:57
10. Money Don't Matter 2 Night (Prince, Rosie Gaines) 4:46
11. Push (Prince, Rosie Gaines) 5:53
12. Insatiable 6:39
13. Live 4 Love (Prince, Tony Mosley) 6:59

Personnel:
Prince - lead vocals and various instruments
Rosie Gaines - keyboards (2), co-lead vocals (3, 11), backing vocals and keyboards (4, 6, 7–9)
Tommy Barbarella - keyboards (2–4, 6–8)
Levi Seacer, Jr. - bass (2, 5, 6, 8–10), rhythm guitar (4, 7)
Sonny T. - bass (3, 4, 7, 13)
Michael B. - drums (2–8, 10, 13)
Sheila E. - synth drum fills (3)
Damon Dickson - percussion (6, 7, 9)
Kirk Johnson - percussion (6, 7, 9)
Eric Leeds - flute (7)
Tony M. - rap (2, 6, 7, 9, 11, 13)
Elisa Fiorillo - additional vocals (2, 8)
Clare Fischer - sampled orchestration (11)





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