Incapacitants 「Quietus」(1993)

 きめ細かいシーツのように、好みのノイズをひたすら持続させた盤。

 インキャパシタンツの4thアルバムは3曲入り。小さな音と爆音、双方で聴くとがらり印象が変わる。

 お薦めは小音量。きめ細かいドローンがふよふよと漂うさまが味わえる。
 ずいぶん静かなノイズだな。柔らかいホワイトノイズがきれいだな、とうっとりできる。通勤帰りの満員電車の中なんて、ぴったりだ。疲れた体と頭が微細なノイズの波に洗われる。決して単調ではない。だがシンプルだ。うっすら煙った曇りガラス越しの風景が脳裏に広がる。日常から、周辺から、夾雑物から切り離されて意識をゆったりくつろがせる。

 そして変化の無さに物足りなくなったら、しめたもの。思い切り爆音で聴いてほしい。シンプルな高音フィルターノイズの奥で、じわじわと軋みつんざき、蠢く様子が楽しめる。元気が出る、というより沸き立つパワーが絞り出されるかのよう。

 そう、本盤はひときわ変化が少ない。アイディア一発をそのまま封じ込めたかのよう。もともとインキャパは初期衝動そのままって印象ある。パンチ力あるサウンドを作り、そのまま疾走する。物語性や盛り上がりよりも、ノイズの音色そのものへストイックに向きあう。

 そんな快楽原則に実直な感じがこの盤だ。よく聴くと、うねりや音の変化はある。だが表面を分厚く細密なノイズでまず塗り、そのうえで高音や低音が移り変わる。ドローンのように目の前をホワイトノイズが埋めた。その微細な隙間を縫うかのように、ノイズが動く。ストイックな作りだ。

 楽曲は20分越えの2曲を4曲ほどの小品で挟んだ。LPは存在しないが、冒頭がA面、2曲目以降がB面ってノリか。あえて全力長尺1曲でなく、分けてノイズの表情を変えてみせるのも、インキャパのこだわりかもしれない。

 (1)は今だとタワレコのキャッチコピーをもじったように見えてしまうが、“NO MUSIC, NO LIFE.”のコーポレート・ボイスは96年から。つまり本盤の3年後。この"No Risk, No Return"は素直に、金融用語でいうリスクとリターンの言葉から取った。
 "High risk,no return"のようにナンセンスな選択肢でなく、冒険心の無い人生を皮肉るような本曲のタイトル付けが興味深い。パンキッシュな反発心もしっかり込めている。
 23分の尺で、埋め尽くすホワイトノイズの海がひたすら広がる構成なのは前述のとおり。もっとも16分くらいからアナログ・シンセめいた、野太い電気仕掛けなサイレン子の咆哮が存在感を増し、細かく言うとシンプル一辺倒なわけではないが。
 エンディングは急速にフェイドアウト。

 (2)のBackfireは、深い意味を込めてるか不明。いちおう金融用語では「裏目に出る」って言葉はあるらしい。
http://www.dictjuggler.net/ecostock/?word=backfire
 美川がなんでもかんでも銀行員の仕事に込めたタイトル付けか、全く別の意味合いで曲名つけたかは微妙なとこだ。

 フェイドイン気味に、そそり立つ鋭いノイズが幾本も。小音量だと涼しげ、大音量だとスリリングに立ち上る。(1)でのホワイトノイズは残骸あるが、背後に配置され前面に軋む音が現れた。前曲の続きともとれるが、ミックスのバランスは明確に異なる。
 力技でひん曲げ、押し付けるような響きがひとしきり続いて、幕。

 (3)の"Gody Fishing"も意味不明。Gobyならハゼの一種らしいが、Godyだとまともに訳語すら出てこない。"宗教色のついた陳腐なもの"ってスラングはあるようだが、たぶん違う。
http://www.urbandictionary.com/define.php?term=Gody
 
 こちらも冒頭はホワイトノイズ。前曲最後の彎曲が若干下がり、双方のバランスが並列となった。前曲のインパクト強いのか、最初はむしろ音量が小さめに聴こえる。
 しゅわしゅわ沸き立つノイズと、大きく振りかぶり身をよじるノイズ。小音量だときめ細かく塗りつぶされ、爆音でもあまり印象は変わらない。冒頭2曲と異なり、高音域の刻みがいくぶん緩和され、比較的に耳へ優しい音像になってる。

 轟音だと音圧がじわじわ攻めてくる。埋め尽くすノイズの奥で金属質なざわめきが続く構造は(1)と似てる。だがこの曲はいくぶん、動きが強まったミックスか。全体的な印象は一定だが、音色の変化は(3)が本盤中でもっとも明確に楽しめる。
 逆にとろけるノイズの持続って意味でも、この曲は気持ちいい。細密な噴出が次々と続き、飽きない。妙な寛ぎを常に感じる。ふっくら微細に編まれたノイズの綿だ。

Track listing:
1.No Risk, No Return 23:12
2.Backfire 4:20
3.Gody Fishing 21:07

Personnel:
Electronics, Voice - 美川俊治, 小堺文雄


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