TZ 7103:New Klezmer Trio "Melt Zonk Rewire"(1995)

 クレヅマーを潔く離れ、使う楽器も多様に飛翔した傑作。

 TZADIKのラジカル・ジューイッシュ・シリーズ初期の一枚であり、実質は2nd。デビューは91年でマサダより数年早い。ユダヤ音楽を下敷きにジャズをのびのび演奏する稀有なバンドが、このニュー・クレヅマー・トリオ。ドラマーのケニー・ウールセンはのちにジョン・ゾーンのアンサンブルに欠かせない一員となった。
 リーダーのベン・ゴルドベルグ(cl)もTZADIKとは縁がつながっている。本バンドのベーシスト、ダン・シマンズのみ、あまりTZADIKシーンには顔を出さない。西海岸を本拠地に活動をしているようだ。

 ということで、本盤。1stはもっと大人しい斬新さだった。そこではアコースティックで伝統音楽を意識しながら、主にウールセンの奔放なリズム・センスが特徴。ある意味、周りに流されない独自世界のクラリネットとベーシストが、先駆的なウールセンの音楽センスを飲み込みながら、アンサンブルを構築した。

 だが本盤ではクレヅマーのくびきからも、潔く逃れた。クレヅマー色は、わずかにクラリネットの音色へ残る程度。1stから4年ほどたった本盤では、すでに独自の世界を強固に構築した。
 楽器もエレキ・ベースや歪んだディストーション、マリンバのようにパーカッションも取り入れる。ダビングでなくあくまでトリオ編成にこだわりつつも、ここにはクレヅマー色はものすごく希薄だ。

 なお楽曲も伝統曲からオリジナル色が強くなった。これはTZADIKからリリースってことで、独自性を追求かもしれない。
 ウールセンがアレンジしたトラッド2曲をLPでいうA面、B面1曲めの位置に置いた。さらに後半でシマンズが1曲、アレンジしたトラッドを入れ構成を締める。
 ほかにウールセンが1曲、シマンズが3曲の自作を提供。あとの6曲はゴルドベルグのオリジナル。ぐっと自作色が強まった。
 
 サウンドにおけるリズムの奔放さは変わらない。タイトに叩きのめす鋭さと、シンプルなビート刻みから拡大され、小節感は薄いけれどフリーなビートとも違う、硬質フリージャズなドラムが詰まった。
 音に馴染んでるせいかな。リーダーのゴルドベルグよりもウールセンに思い入れ込めてつい聴いてしまう。

 このバンドは、本盤を僕は最初に聴いた。クレヅマーにも詳しくなく、フリージャズの文脈にクレヅマーを振りかけた程度かな、と安直に考えていた。とんでもない。伝統音楽のエッセンスを見事にフリージャズへ溶け込ませた凄まじいコンセプトだった。
 さらに本盤では、その流れを自らでがっぷり消化し、自らの音楽として描き上げている。もっと詳しい人の解説を聞きながら、楽しみたい音楽だ。

 この鋭さ、無秩序さと整然たるアンサンブル志向は、まさに東海岸のスタイル。西海岸で作り上げるセンスが凄い。さらに本盤は今から20年前だ。今でも通じる、青白くドライで熱のこもったサウンドは、斬新さが衰えていない。ジョン・ゾーンよりも10年ほど、早い視点とアプローチだと思う。

 テクニックはしっかり。ウールセンのドラムが奔放かつ鋭角に刺さり、ベースは休むことなくグルーヴを責め立てる。エキゾティックなフレーズをきっちり牧歌的に消化しつつも、先鋭性を披露し続けるゴルドベルグのクラリネットも、さりげなく凄い。

 このバンドは本盤以降、00年に"Short for Something"を出したあと、バンドで発表の無い寡作な活動をしてる。正味なところ、2016年の今となっては実質的なフォロワーも多数いる。MASADAがユダヤ音楽の普及を強力にしたし。


 だが本盤の先駆性は薄れないし、今でも音楽は聴くほどに複雑だ。譜面じゃなく即興が仕掛けっぽく鳴ってると思うが。
 長尺のインタープレイでなく、次々と曲を重ねて表現の多彩さを狙った。実はすさまじく、聴きごたえある盤だ。

Track listing:
1. "Gas Nine" (Traditional) - 2:24
2. "Sarcophagous" - 5:02
3. "The Haunt" (Dan Seamans) - 4:33
4. "Thermoglypics" - 3:33
5. "The Chant" - 3:23
6. "We Got There" (Seamans) - 5:27
7. "Feedback Doina" (Kenny Wollesen) - 5:08
8. "Freilakh Nakht" (Traditional) - 3:04
9. "Hypothetical" - 3:22
10. "The Shot" - 3:59
11. "Distiller" (Traditional) - 2:35
12. "Phrases" - 3:29
13. "Fourth Floor" (Seamans) - 2:59
14. "Starting Place" - 4:44

Personnel:
Ben Goldberg - clarinet,bass clarinet
Dan Seamans - bass
Kenny Wollesen - drums,per


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