TZ 7112:New Klezmer Trio "Mask and Faces"(1990)

 強烈な新しさを持ったトリオの1st。伝統に斬新さを見事に溶け込ませた。

 冒頭から歯が浮きそうな、リードミスぎりぎりでノイジーにクラリネットがつんざき戸惑うけれど。聴き進めるとクレヅマーを下敷きにした、奔放なビート感を持つジャズが詰まった。
 ここではリズムやテンポが優先ではない。むしろ小節感こそあれ、緩やかで自由な空気が膨らむ。ドラムは刻みよりもランダムに叩くかのよう。その一方で雑多な感は希薄で、すっと統一されたひとつながりの流れを漂わす。
 
 TZADIKでは馴染みのクラリネット奏者Ben Goldbergが率いるトリオ・ジャズの1st。もとは西海岸のレーベルNine Winds Recordsで発表されたものを、96年にジョン・ゾーンがTZADIKからリイシューした。
 MASADAのデビューが93年だから、本ユニットはそれより早い。今でこそ自然に聴けるが、当時はこのバンドの音楽性が衝撃的だったと思われる。

 TZADIKの立ち上げも95年。ラジカル・ジューイッシュ・シリーズの3枚目でこのバンドの新作"Melt Zonk Rewire"(1995)をすぐさまリリース、間をおかず翌年に本盤のリイシュー。いかにゾーンが本バンドの重要性を認識してたかわかる。

 さらにこのバンド、ドラマーはケニー・ウールセン。そう、ゾーンの各種ユニットに欠かせない人物だ。さまざまな意味で本盤はゾーンのユダヤ音楽路線の開拓に、キーととなった。
 なおベースのDan Seamansは断続的にTZADIKと関わるも、主戦場は西海岸。東へ移住せず、地元で着実に活動のようだ。

 本盤は重たい。タイトでパルスのようなドラムに、着実にフレーズを重ねるベース。そして伸び伸びと甲高い音色でクラリネット。音数はシンプルだし、空白も多い。だが間延びはしない。すっきりしつつも重厚な闇を含ませる。
 
 楽曲でゴールドバーグのオリジナルは3曲のみ。Dan Seamansも1曲提供した。あとはトラッドが3曲、他にはItzikel KramtweissやSam Beckermanの作品。つまり過半数はクレヅマーの文化伝統を踏まえてる。
 しかし、楽曲は新しい。切ない情感はそのままに、ずぶずぶと奥深い粘りを作った。

 たぶん本盤はクレヅマーに親しんだ人ほど、異様さや斬新さがピンとくると思う。ぼくはあくまでジョン・ゾーンのフィルター経由でクレヅマーを知り、ちょこちょこ周辺を撫でてるていど。本質的なクレヅマーを知らない。

 だからこの盤はフリー要素を大幅に取り入れ、熱狂を消して情感をクールに滲ませた、クレヅマーを下敷きにしたジャズって聞こえてしまう。おそらくもっと、この盤の音楽性は深いはずだ。クレヅマー視点で、とんでもない斬新さを持ってるはずだ。

 本盤は、本当に詳しい人の解説を伺いながら聴いてみたい。MASADAが席巻前に、彼らはどんな斬新さを築いたんだろう。
 日本で言うと、アルタード・ステーツを強烈に連想する。

 演奏はばっちり。後年も炸裂するウールセンの奇数連符をするする流し込む、浮遊しながら安定したドラミングが抜群の安定感を持つ。とっつきにくい厳かさと、したたかさがにじむ。
 その観点で、この盤は聴きごたえがある。爽快感とは、ちょっと違うが。
 複雑な構造を、あまり譜面化せず素直に奔放に演奏した。

 ウールセンがのってくると、ドラムから小節線が軽やかに解放される。だがベースがしっかり手綱を持ち、クラリネットはどこまでもしなやかだ。
 変拍子も凄く自然に展開していく。

Track listing:
1. Cardboard Factory
2. Hot And Cold
3. Rebbe's Mea
4. l
5. Up
6. Washing Machine Song
7. Galician
8. Masks And Faces
9. Haphazard
10. Bitonal Song

Personnel:
Ben Goldberg: Clarinet
Dan Seamans: Bass
Kenny Wollesen: Drums
 
 Youtubeでライブ音源を検索してたら、ベースにマサダのグレッグ・コーエンを招いた東海岸仕様な本トリオのライブ映像があった。身もふたもないな。

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