TZ 8303:John Zorn "Vision in Blakelight"(2012)

 英ウィリアム・ブレイクに啓発され、疑似バンドNova Expressで構築したコンセプト・アルバム。

 ピアノにビブラフォンを入れたカルテット編成でジョン・ゾーンが組んだ疑似的なバンド、Nova Express。サウンドの主導権は演奏に参加しないゾーンにあり、指揮で即興的に演奏を進行、制御する。すなわちゲーム・ピースと同様に、本来は無軌道になりがちな即興をロジカルかつ明瞭に操るコンセプト。ゾーンの永遠のテーマの一つだ。

 本ユニットは着実にアルバムを重ねてきた。"Nova Express"(2011),"At the Gates of Paradise"(2011)に続く3作目が本盤。このあとも現時点で、"The Concealed"(2012),"Dreamachines"(2013),"On Leaves of Grass"(2014)と続く。
     
 完全なカルテット編成でなく、盤によってメンバーは増える。がちがちに音楽性を固めず、サントラを作るときのように、柔軟性を本ユニットにゾーンは持たせた。

 詩人などにインスパイアされた音楽、が通底したコンセプトか。音楽的にはミニマル要素を漂わせた、ラウンジ・ミュージック。
 初期のサックスを軋ませるノイジーで尖ったイメージはどこへやら、近年の心地よく穏やかな音楽を連発するゾーン世界の大きな一要素に、本ユニットも含まれる。

 本盤のテーマは英国で19世紀の詩人、ウィリアム・ブレイク。ジャケットの絵画、中袋の文章もブレイクの作品だ。
 ゾーンは彼に思い入れあるようで、ブレイクの作品では翌年にビル・フリゼールらの疑似ユニット、グノシック・トリオにて"In Lambeth-Visions From The Walled Garden Of William Blake"(2013)も発表した。
 4曲にシロ・バチスタが参加。軽快なパーカッションでリズムにふくらみを持たせた。1曲はブレイクの詩を朗読でJack Hustonが加わる。
 
 コンセプト・アルバムとしたが、音楽的な通底性やメロディの流用ではない。文字通り、コンセプト。全10曲の音楽性も意外と幅広い。バンド編成は変わらないが、ラウンジからジャズっぽさ、即興的な深化など色々と曲ごとにアプローチをずらしてる。
 一曲は3~7分とさほど長くもなく、くるくると世界の風景が映っていく感じ。

 あえて共通性を持たせるなら、暴力性の排除と穏やかな慈愛の空気か。乱雑さは無く優美。混沌でなく淑やかな美しさ。

 この盤ではミキシングの丁寧さが、なんだかすごく印象に残った。ジャズ的なアンサンブルは、同時録音ってイメージが凄くある。まして昔のモダン・ジャズはモノラル録音、楽器同士のバランスは奏者がその場で操作しか手が無い。
 今ならばマルチ録音が可能だが、なんとなく奏者がボリュームもアンサンブルに合わせ変えてるような先入観がある。

 だが本盤は違う。くるくると変わる音量バランス、前面に出る楽器の取捨選択はミキサー卓で明瞭な操作と思えてならない。ハープ、ビブラフォン、そしてピアノ。場面ごとに目立つ楽器はクッキリと異なり、だれが音の主役かをはっきりさせた。

 別に本盤に限らず、他のゾーンの盤でも同様な手法は取ってると思う。だがこれまであれこれと彼の作った盤を聴いてきた中で、初めて「ああ、ミキシングで楽器のバランスを取ってるな」と強く思った。
 ハープやビブラフォンのように音量調節が難しそうな楽器が、場面ごとでくるくるとダイナミズムを変更のせいもある。アグレッシブにハードバップを決める(6)まで入った、楽想じたいが多彩なアルバムなせいもある。

 要はバラエティさと楽器の目まぐるしいほどな入れ代わり立ち代わりに感銘したせい。
 決して悪いことは無い。ぱっと一発録りに思わせて、緻密なアレンジや構成を施してるとわかり、唸ったって意味だ。
 
 全10曲、どれもが存在感ある。アルバム全体の大きな流れを音楽に込めたストーリー性ではなく、曲の変化で作った。バラエティさ、違いそのもので流れを作った。
 2015年の本盤25作目で発表するThe SPIKE Orchestraと、通底する新たなかっこよさだ。
 すなわち即興のスリルが演奏力のすさまじさに置き換わった。マサダの持つ魅力である、シンプルな旋律を踏まえれば自由にあとは好き放題って懐深さが、本盤はむしろ制限された。がちがちにアレンジされている。
 しかしそのがちがちさが、めちゃくちゃかっこいい。

 アフロ・ファンクなスタイルの粘る重たいグルーヴも、整然な演奏で綺麗に磨き上げられ、剛腕に輝く。重厚な戦車が障害物をなぎ倒すようなもの。
 しかも本盤は曲の長さをバラバラにして、メリハリをいっぱいつけた。10分越えの眺めな曲も用意し、アレンジそのものもの妙味、構成を自由にかき回すアドリブのスリルの双方を様々に見せつける。
 
 いわばくっきりしたビートへ混沌なムードを意図的に流し込んだ。演奏が揺れる混沌ではない。すべてが計算づく。意図が透けるいやらしさは皆無で、優れたテクニックの奏者が軽々と、ハードルを飛び越えていく痛快さが詰まった。

 そのうえホーン隊が多くともジャズの文脈ともずれており、エレキギターやオルガン音色も目立つため、既定のビッグバンドとイメージも違う。
 意外と新しい路線だ。危うさは、無い。上手いから。だが妖しさはある。磨き上げた表面からじわり滲むかのように。

 これまた、凄くかっこいい盤がBook of Angelsのラインナップに加わった。聴きこむほどに、新たな魅力に気づく。

Track listing:
1. "When the Morning Stars Sang Together" - 5:28
2. "The Hammer of Los" - 3:58
3. "Jerusalem" - 5:15
4. "Prophecy" - 3:10
5. "And He Rode Upon the Cherubim" - 5:09
6. "Marriage of Heaven and Hell" - 4:18
7. "Woman Clothed with the Sun" - 5:20
8. "Shadows in Ancient Time" (Zorn, William Blake) - 5:40
9. "Island in the Moon" - 7:06
10. "Night Thoughts" - 4:55

Personnel:
John Medeski - piano, organ
Kenny Wollesen - vibraphone, bells
Carol Emanuel - harp
Trevor Dunn - bass
Joey Baron - drums
Cyro Baptista - percussion on 1 to 3, 7
Jack Huston - narration on 8

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