John Zorn 「Spy vs Spy」(1989)

 高速スラッシュなアプローチで、オーネットの器楽的な作曲が持つ鋭利さを強調した。

 "Spy vs Spy"とは、61年のアメコミや84年のテレビゲームに同名のものがあり。録音が88年だから、ジョン・ゾーンがどちらを脳裏に置いてタイトルつけても不思議じゃない。ゾーンの趣味だと、アメコミのほうかな。

 ドラムが二人、ベースが二人にアルト・サックスが二人。左がティム・バーン、右がゾーンと定位がきめられている。ティムの観点で本盤を聴いても興味深いはずだが、僕は彼の音楽をほとんど聴いたことなく、本項では割愛。
 ベテラン・ミュージシャンだが音盤としてはジョン・ゾーンとの接点は少ない。本盤に先立つ"The Big Gundown"(1986)くらいか。ちょっと意外。お互いに一国一城の主すぎて、なかなか共演のタイミングもないか。

 本盤は一曲目からの高速ビートで、盤のイメージが逆に固定されてしまう。
 確かにスラッシュ・メタルやグラインド・コアにも影響なり意識は分かるが、実際の演奏はスピード一辺倒でもノイズでもない。メロディアスだ。
 どかどか胴鳴りが喧しい、シンセ・ドラムっぽい太鼓の印象が逆に、本盤のイメージを固定しかねない。それが本盤で、唯一の不満。聴き進めると、メロウな場面もあるとわかる。

 個々の曲はあまりソロ回しをしない。どんどん次の曲へ進み、アルバム1枚に17曲を詰め込んだ。
 本盤でのコンセプトは凄腕ミュージシャンによるタイトでスピーディな、オーネットの再解釈。

 下に書いたが、幅広いオーネットのアルバムから選曲されてる一方で、本盤を録音した88年の直前に発売した"In All Languages"(1987)から4曲と多い。新譜を聴いて過去のオーネットに馳せる思いを一気にコンセプト化して、アルバムに仕立てたかのよう。
 ニューヨークではライブなどで一番当時馴染んでたレパートリーだったのかもしれないし、単純にハーモロディクスとダブル・トリオのオーネットのコンセプトをゾーンなりに再解釈に、ちょうどいい曲と思ったのかもしれない。

 なおこの88年夏の録音前後で、日本では異なる編成でのオーネット曲を演奏するライブを行った。委細は後述する。
 ジャケットにオリジナルのオーネットの盤名も記載あり。"Mob Job"は"Of Human Feelings"(1979)でなく、"Song X"(1986)が記載あり。

 抜群のサックス・テクニックが味わえる盤でもある。揃って、てんでに、猛スピードにコントロールされた整然かつブルージーなサックス使いも見事。ライブでのラフさは横に置き、フリーク・トーンと素早いタンギングや指使いの素晴らしい技巧も満載だ。
 性急で情報過多を消化する勢いと、メロディの美しさを素早く咀嚼する若々しさにあふれてる。

 最初は圧倒され、聴きこむにつれ唸らされるアルバム。
 似たような高速メロディが連発するため、最初は曲の違いすらピンとこない。だが個々の楽曲が認識できるようになり、テーマとソロの滑らかな変化に惚れたとき。本盤はさらに、魅力を増す。
 歴史に残る一枚。ジョン・ゾーンの数あるアルバムの中でも、ひときわ傑作だ。

 今は廃盤が惜しい。それほどプレミアはついていないが中古を探すしかない。なぜかゾーンはこの原盤権をNonesuchから買い取らず、TZADIKから再発を行ってない。
 2011年に日本のタワレコが自社限定でSHM-CDにて再発して、それはまだ在庫あるようだ。中古ならAmazon経由でも買える。
 

 なおYoutubeへ2012/12/19に関連音源のブートがいきなりアップされた。新宿ピットインのライブらしく、委細は不明。


[set list]
0:00- 1:46 Audience Noise
1:47- 5:57 "Good Old Days"
6:47- 8:23 "Peace Warriors"
9:11- 12:44 "W.R.U."
13:22- 16:30 "Zig Zag"
17:23- 19:17 "The Disguise"
20:17- 28:55 ? ブルーズのセッション?
(ゲスト参加)
30:38- 32:33 "Chronology"
33:16- 38:11 "Mob Job"
39:01- 43:47 "Feet Music"
44:30- 47:28 "C. & D."
47:55- 53:11 "Broad Way Blues"
54:38- 56:45 "Rejoicing"
57:21- 59:50 "Space Church"
1:00:05-1:04:08 "Ecars"
1:04:52-1:07:33 "Enfant"
1:09:24-1:11:13 "Blues Connotation"
(アンコール?編集あり?)
1:11:24-1:16:47 ? ベース・リフは"Oh,Pretty Woman"(Roy Orbison)
(編集あり)
1:17:35-1:19:05 "Peace Warriors"(Reprise)

 上記のセットリストはぼくの聴きとりのため、間違いはご指摘お願いします。オーディエンス録音で音質はそれなり。ブート基準で4くらいか。だが、とても貴重な記録。

 全体的に、猛烈に荒っぽい演奏だ。編成はエレキギター、ドラム、ベースにジョン・ゾーンかな。
 やたら曲間が長い。選曲してるのかも。曲紹介やおしゃべりは無く、淡々とライブは進んでいく。演奏はタイトで猛然とした勢いが一杯だ。すごくかっこいい。

 確かに曲数は多いが、アルバムとは違って個々のソロやフリーな部分の要素が多い。この辺は、ライブならではの良さ。だいたいアルバムの数倍に曲が拡大されてる。2分が6分とか、そのレベルだが。

 ここではダブル・トリオって編成は無い。中盤でゲストが入り2サックスになる。もっともドラムは二人らしい。ならばその時点で"Spy vs Spy"のコンセプトは成立してるな。
 音質のせいもあり、あまり2ドラムの必然性が聴き取れない。厚み出しを狙いか。

ジョンが終盤にMCで「12月まではいるからよろしく」と言い、「まだ春じゃない」みたいな観客の茶々に聴こえる。
 するとこのWebに1988年7月17日に JOHN ZORN「C&D」JOHN ZORN PLAYS ORNETTE COLEMANってライブがある。この音源だろうか?
 JOHN ZORN(Sax)近藤房之助(G)早川岳晴(B)山木秀夫,仙波清彦(Ds)
http://www.geocities.jp/konkichi_fox3/1988.html

 だが一方でMixiのジョン・ゾーンのコミュには、88年冬の深夜に"Spy vs Spy"ライブがあり、メンバーは近藤房之助(G)早川岳晴(B)山木秀夫,PILL(Ds)、ゲストに梅津和時って記述だった。
 今回のブート音源は確かに中盤から梅津らしいサックスも加わるため、後者の音源っぽいが、真実は不明。

 いずれにせよ近藤房之助をギターに起用ってコンセプトが非常に興味深い。ブルーズ要素の投入をゾーンは意識してたと思われる。ドラマーやベーシストの選択も、ジャズ一辺倒でなくロック的な骨太さを意識っぽい。

 つまりここでは"Spy vs Spy"のアルバム・コンセプトに無い、ブルーズ要素、ギタリスト投入、ってアプローチが行われてる。まだゾーンは、"Spy vs Spy"の拡大も構想あったようだ。膨大なアイディアを放出するため、今となってはその音源を確認はできないが。 そのため委細は不明ながら当時の様子が伺える、これはとてもありがたいブート音源だ。

Track listing: 【】内が、オーネットのアルバム名、発売年
1. "WRU" - 2:38 【"Ornette!" 1962】
2. "Chronology" - 1:08 【"The Shape of Jazz to Come"1959】
3. "Word for Bird" - 1:14 【"In All Languages":1987】
4. "Good Old Days" - 2:44 【"The Empty Foxhole":1966】
5. "The Disguise" - 1:18 【"Something Else!!!!":1958】
6. "Enfant" - 2:37 【"Ornette on Tenor":1962】
7. "Rejoicing" - 1:38 【"Tomorrow Is the Question!":1959】
8. "Blues Connotation" - 1:05 【"This Is Our Music":1961】
9. "C. & D." - 3:05 【"Ornette!":1962】
10. "Chippie" - 1:08 【"Something Else!!!!":1958】
11. "Peace Warriors" - 1:20 【"In All Languages":1987】
12. "Ecars" - 2:28 【"Ornette on Tenor":1962】
13. "Feet Music" - 4:45 【"In All Languages":1987】
14. "Broad Way Blues" - 3:42 【"New York Is Now!":1968】
15. "Space Church" - 2:28 【"In All Languages":1987】
16. "Zig Zag" - 2:54 【"The Empty Foxhole":1966】
17. "Mob Job" - 4:24 【"Song X":1979】

Personnel:
John Zorn: alto saxophone
Tim Berne: alto saxophone
Mark Dresser: bass
Joey Baron: drums
Michael Vatcher: drums


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