sasaki mika 「Return of Sasakisan」(2006)

 素朴と即興のなテクノ。フィールド・レコーディングの構成が効果的だ。

 作曲家ではない女性が、自らの携帯で即興的に作った音楽を集めたアルバム。ガラケー時代の着信音を作曲ソフトかな。いわゆるチープな電子音だが、ファミコン時代の8bit音源と違い、若干ふくらみある音色なのに時代を感じる。

 楽典にのっとってはいない。不思議ちゃん系の恣意的なヘンテコさを狙ってもいない、はず。ただ、無秩序に思うがままメロディを重ねた。ミニマルであり、突飛であり、不思議な幻想性と寛ぎをもたらす。
 だいたい1~2分の作品を38曲詰め込んだ。

 音楽は本当にシンプルだ。ほぼ、単音。たまに和音が広がる。断片的なメロディに至ることもあれば、音がなんとなくつながってるだけってことも。音色も時々変わる。
 これは携帯で作った音源、そのままを録音してるらしい。
 細野晴臣がモナドで作った環境音楽を連想する。だがササキミカの本盤は、作曲の構築性をあまり気にしない。アイディア・メモでもない。ただ、音の羅列だ。その思い切りの良さ、潔さが涼しげなスリルを産んだ。

 だが本盤は単なる電子音の羅列ではない。この音楽に、日常の音声をダビングして不条理な世界を作ったところに、本盤の特異性がある。
 物語がありそうで、秩序やストーリー性は無い。すべてがブツ切れの瞬間を作り、次の曲へ向かっている。
 タクシーの中の会話、人のざわめき、たまに意味性がある風景が音楽に混ざり、ぼおっと聴いてると音楽とSEのどちらが主かわからなくなる。

 日常は、世界は微細なノイズにあふれている。生活音や日常音と、音楽としての無造作な電子音が融合し、奇妙だがほんのちょっとだけしか乖離してない非日常世界を、本盤は見事に描いた。

 本盤は音楽の素朴さもさりながら、トータル性を持たせた見事な演出の勝利だと思ったら。
 編集やプロデュースを行ったYuichiro Fujimoto(藤本雄一郎) 自身がフィールド・レコーディングを得意とするエレクトロニカの音楽家だった。最近作がこの"Speaks Melodies"(2012)かな。Youtubeからも一曲、貼っておこう。
  

 順番が前後したが、最後にササキミカのプロフィールを記しておく。
 本盤発表の前に、世界中のミュージシャンが彼女の音源をリメイクした"memories of sasaki san"(2005)があり。その後、実際の携帯音源そのものを収録した本盤の発表に至った。
 
 ササキミカは千葉県のアーティストらしい。佐々木美香名義で08年にアート・ブック"art of sasakisan"の出版まではたどれたが、現在の活動内容は不明だ。
 08年当時のWebは今も残ってるが、更新は無い。
http://www.powershovelbooks.com/art-of-sasaki-san/
 音楽好きの立場としては現在の作曲も聴いてみたいところだが、仮に活動してたとしてもアート志向で今や作曲そのものに興味持ってない可能性あるなあ。

  

Track listing:
1. 街へ
2. しきしゃ
3. 泣きマト
4. りな
5. ほうれんそう
6. はるか
7. カンガルー ポー
8. ゆかり
9. きれい
10. こくばん
11. えんぴつ
12. こっきょう
13. はち
14. きょうかい
15. とりのすをありがとう
16. めかぶ
17. はりねずみ
18. もうひとつのくに
19. タクシーで
20. のうてんき
21. わだあい
22. きんちょう
23. みち
24. これからいいことがある
25. てんじょう
26. うえき
27. おわらい
28. かぜ
29. とちゅう
30. きょうしつ
31. うそ
32. ふえ
33. まり
34. カレンダーガール
35. てがみ
36. ぼうえんきょう
37. みず
38. あらし

Personnel:
Edited and Produced - Yuichiro Fujimoto

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