Dinosaur Jr. 「Beyond」(2007)

 10年たって金太郎飴の恐竜は甦った。そしてもう、10年近くの月日がたつ。

 もともとぼくはハード・ロックって苦手。軽いポップスやソウルを主に学生時代には聴いており、いわゆるエレキギターがぎゃーんと鳴って、畳みかけるエイトビートってのはピンと来なかった。だから数十年たった今でも、頭ではかっこよさがわかるが、あまり体に初期衝動は沁みこんでない。
 だが何故か、20年程前からダイナソー・Jr.だけは素直に聴けた。って、全ての盤は聴いてないが。

 たぶんJ・マスシスの歪んだギターがノイズと同じ発想だから。細かく歪みの音色にこだわるスタンスなんて、特に。さらにポップなメロディのセンス。その方向性に親しみを感じたんだと思う。
 2001年にJのソロ公演に行ったが、ほぼ一曲ごとにギターを変えていた。観客側は轟音で耳がやられ、はっきり言って細かい音など聴き分けられない。それでもギターにこだわるJのスタンスが興味深かった。

 本盤はバンドの再結成アルバム。ダイナソーはメンバーが次々抜け、Jのソロ・ユニット化していた。やがてダイナソーは活動停止。JはソロからWitch結成に動きがシフトした。
 しかし本盤で改めて、オリジナル・メンバーを集めて10年ぶりに再稼働する。
 なんだかんだ言って、ダイナソーのブランドとしてJはバンド活動に夢を持っていたのかもしれない。共同体的な意味の、バンドに。

 マイク・ジョンソンがいたとはいえ、基本のとこでJはメンバーが抜けても、ころころと追加メンバーをダイナソーへ迎えなかった。潔く独りぼっちになり、バンドを停止させた。
 07年のインタビューでも、バンドのこだわりをJは語っている。
http://www.cdjournal.com/main/cdjpush/dinosaur-jr/1000000013
 
 そして再稼働した本盤。一曲目から素直に歪んだギターが飛び出して、思わず笑ってしまった。いや、Jはソロでも活動してたけど。全くブレてない。ダイナソーは金太郎飴のように、サウンドが固まっている。

 なおギターの音色は曲ごとに違う。そのへん、Jはこだわり続けた。
 豪放でシンプルなサウンドがダイナソーの真骨頂なのに。ちまちまとエフェクターのつまみをあれこれ試行錯誤して、気分に最適な歪みをJは模索してるのか。それを想像すると、ちょっと笑える。

 "dinosaur jr guitar effects"で検索するといい。以下のごとく簡単に、いくつも記事が引っかかる。足元に膨大なエフェクターを並べ、歪んだ音色にこだわるJに関する記事が。
http://www.premierguitar.com/articles/Rig_Rundown_Dinosaur_Jr_s_J_Mascis
http://www.kitrae.net/music/J_Mascis_Big_Muff.html
https://www.guitar.com/rigs/j-mascis-dinosaur-jr-1996-rig-and-gear-setup
http://www.musicradar.com/news/guitars/interview-j-mascis-on-fender-jazzmasters-fuzz-pedals-and-i-bet-on-sky-567500
http://www.guitarworld.com/interview-j-mascis-dinosaur-jr

 コンパクトなエフェクターで、Jの音を再現するって企画の動画もあった。  


 本盤は全11曲入り。ぼくは日本盤で聴いたため、ボートラ2曲付だ。(12)は文字通りオマケな小品だけど。
 へなへなしたJの歌声はそのままだが、裏声は少なくして地声をメインで歌ってる。ステージを意識したか。

 ダイナソーの不思議さは、ボーカルの線が細いところ。Jがギターに回り、派手なボーカルを入れる選択をしない。あくまで3ピースの最小編成で、Jが歌う。
 曲提供にかなりプレッシャー感じたようだが、バーロウも2曲を提供した。明らかにカラーが違う。アルバムを通してバーロウの曲になったとたん、空気が変わる。

 根底が甘くて豪快で、少しばかりへなちょこなJの曲調はアルバム全体をもわっと力強く充満させた。ラフで時々リズムがばらけるマーフのドラムが、がたがたと荒道を走るジープのように疾走する。バーロウのベースはギターに埋め込まれるようなミックス・バランスで芯の柔らかい音色を確保した。

 ダビングありかもだが、基本は3ピースのみでライブにそのままかけられそう。
 そしてJのスケール大きく歪んだギター・ソロもいっぱいだ。でも轟音一辺倒じゃない。
 (8)みたいにクリアなギターの曲。アコースティック色にファルセットに多重ボーカルな(9)なども混ぜて、アルバムにメリハリをつけた。

 アルバム全体のイメージは、しごく大人しい。アップテンポも切迫感より、ゆったりした余裕もしくは穏やかさあり。リズムで暴れるよりノイズがメインかのよう。ダイナソーはもともとそんなとこがあったが、再結成の本盤はルーズさがおっさんのゆとりっぽい。
 たとえマーフが手数多く鳴らしても変わらない。それは若さゆえの発散や炸裂でなく、「ロック・ドラマーは、そういうものだ」って類型さを感じてしまう。
 本盤を聴いて、燃え立つ新鮮さよりも昔と変わらぬ持続性が先に立つ。悪いことじゃない。Jも聴いてる俺も、もはや10代のガキじゃない。20代の若造でもない。何十年も生きてきて、中年になったんだ。
 それでも歪んだギターを多彩に鳴らして、心を沸き立たせられるんだ。
  
 ダイナソーがデビューから32年もたつ。本盤からも10年。そしてダイナソーはいまだにこのメンバーで活動を続けてる。Jが50歳とはね。人生の危なっかしい微妙な時期を活動停止で乗り越え、不惑を超えてロック・バンドが続く。
 不思議なもんだ。ロックは若者の音楽、ってのが30年前の印象だった。不惑はとっくに超えた自分を顧たら感覚はあんまり進歩してないとも感じる。歳をとっても根本はあんまり変わんないのかもしれないな。身体はガタが来たなあ、とは思うが。

 本盤からのPV(6)はこちら。サーストン・ムーアが子供たちに「ダイナソーの新曲は知ってるか?」って諭すところが、これまた歳を感じる。色んな意味でギャグだ。この手の音楽って、親から教わるもんでもあるまいに。時代は変わったなあ、この手の音楽が出て、何年もたったなあと思う。80年代にロックを聴き始めても、親の世代は当然ロックなんてきいてなかったもの。

 PVの時、Jたちは40歳くらいのはず。だけどそのわりに、不健康に老けて太って恰幅出まくり。この時点で、50歳くらいに見えてしまう。いや、肌の色つやはまだあるか?

 しかし着実に再結成ダイナソーJr.はアルバムを重ねてる。今年も新譜"Give a glimpse of what yer not"が出た。安定したグランジ・ロックってなんか語義矛盾な気も。いいんだけどさ、音楽は聴きたいから。
   
 ちなみにダイナソーJr.はマサチューセッツ州と思い切り東海岸。グランジはワシントン州シアトルと西海岸を中心の音楽シーンだったんだ。知らなかった。

Track listing:
1. "Almost Ready"
2. "Crumble"
3. "Pick Me Up"
4. "Back to Your Heart"
5. "This Is All I Came to Do"
6. "Been There All the Time"
7. "It's Me"
8. "We're Not Alone"
9. "I Got Lost"
10. "Lightning Bulb"
11. "What If I Knew"
12. "Yer Son"
13. "Tiny Town"

Personnel:
J Mascis - Guitar, Vocals
Lou Barlow - Bass, Vocals
Murph - Drums

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